坂の街に導かれて:新しい日常とデイユースプランとの邂逅

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

今年初めての出勤日。何かを成し遂げたわけではないが、無事に年を越せたという妙な達成感と感謝の念を抱きながら、私はいつものようにデスクに向かった。

ふとカレンダーに目をやると、見慣れない予定が書き込まれている。 「ちょっと話がある。会議室まで来てくれるか」

上司からの急な呼び出し。胸をよぎる予感は的中した。 「急で申し訳ないが、長崎支店への異動が決まった。来月の……」

その後の言葉は、霧の中に消えていった。長崎への転勤。街自体は嫌いじゃない。だが、一つだけ寂しいことがあった。あのお気に入りの宿、「ホテルエイチツー長崎」に、客として泊まる理由がなくなってしまうのではないか——。

期待と一抹の寂しさが入り混じり、その日の仕事は手につかなかった。

後日、私は物件探しの旅で長崎に降り立った。不動産屋を予約し、1泊2日で市内のマンションや中古物件を片っ端から回る予定だ。宿はもちろん、ホテルエイチツー長崎を選んだ。

いざ住宅エリアに足を踏み入れると、そこには独特の風情が広がっていた。山の斜面にへばりつくように形成された街並み。細い路地、水路に揺れる藻、適度に自然を残した雑木林。長崎特有の「和・華・蘭」が混ざり合ったような不思議な空気感に、私はいつしか物件探しを忘れ、町の細部を眺めることに夢中になっていた。

結局、初日はこれといった収穫もなく、明日に持ち越しとなった。

夜はいつものルーティンを楽しんだ。 ホテルのバー「kakuuchi」で、馴染みのバーテンダーから周辺のおすすめスポットを教えてもらい、夜の街へ繰り出す。戻ってからは大浴場で一日の疲れを流し、湯上がりには再びバーテンダーと顔を合わせ、テイクアウトしたジェラートを部屋で頬張る。

「明日はきっと、いい場所が見つかるさ」 心地よい疲労感の中で、自分に言い聞かせるように眠りについた。

翌朝、早朝から精力的に動き回った甲斐があり、ようやく理想的な物件に出会うことができた。時刻は13時。目的を果たし、昼食を済ませて帰路に就こうとしたが、ふと猛烈な眠気に襲われた。連日の慣れない内見で、車の運転ができる状態ではない。

預けていた荷物を受け取りに、再びホテルのフロントへ向かった。フロントでの列に並んでいるとき、耳にしたのは、思いがけない言葉だった。

「本日、デイユースプランでのご利用ですね。」

「デイユースプラン……?」 そんな選択肢があったのか。調べてみると、公式サイトから手軽に予約できるようだ。 私は迷わず予約を入れ、昼食後に再びチェックインを済ませた。

デイユースプランは驚くほどリーズナブルでありながら、宿泊客と同様のサービスを享受できる。もちろん、大好きな大浴場も利用可能だ。夜22時まで滞在できるという。

16時。早めの風呂でさっぱりした後、清潔なベッドに身を沈めて深い眠りについた。目が覚めたときには体力が完全に回復しており、これなら帰りの運転も安心だ。

「デイユースか。引っ越した後も、また利用してみようかな」

長崎での新しい生活に、柔らかな光が差し込んできたような気がした。

~ある男シリーズ「完」~

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